人生の軌跡・流郷松三郎の残思録

米寿に想う我が人生

1970年の秋【12】

初の海外旅行【12】ブリュッセル滞在

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  ベルギー貨幣 10フラン 1970年発行

 国が変わればお金が変わる。当然の事で到着時に空港の銀行で両替した。

 北欧のクロナから今度はフランである。フランは主にフランスの通貨として知られているが、隣接のベルギーやスイスでも同じ名称で流通する通貨で、それぞれにレートを異にする。ベルギーフランは100フランが米ドル2ドルであったので日本円に換算すれば720円に相当する。

 写真のコインは1970年発行の10フランであるから日本円72円で、100円より少し価値が低いと頭に入れておけば後は値札を見て買うだけである。

 因みに持ち帰ったヨーロッパのコインの中では裏面のデザインが秀逸である。両サイドのカーテンに囲まれて王室の紋章が彫り込まれており、その上部に旗が8本建てられている。詳しくは分からないがベルギー国内の州を表わしていると思われる。これなどスプーンの頭部飾りと同じ趣向で訪問記念品としても価値があると思っている。ユーロとして統一されてしまった現在では消えてしまった伝統文化の名残りである。

 ところでブリュッセルのホテルも予算オーバーであった。

 予約していたパレス・ホテルは、嘗て常陸宮と華子様が新婚旅行でお泊りになったと云う格式の高い典雅なホテルで、我々の部屋も鏡張りの上、装飾・調度も素晴らしく宮殿を思わせた。1泊10ドルではとても泊まれそうもないと思ったが、皆さん口には出さず団会計担当者にお任せして豪華な雰囲気に溶け込んだ。

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   ブリュッセル随一の観光名所グラン・プラス(上の写真)を訪れた後、市内の目抜き通りを散策しヨーロッパの風情を楽しんが、デパートの大ウインドウ一杯に飾られた女性下着のカラフルなオンパレードに驚いた。日本ではランジェリーという言葉が囁け始めた頃で、デパートでも男子禁断のムードが漂う売場で近寄った事がない。

 ところがこちらでは事もあろうに通りに面して飾り立てているのに一瞬度肝を抜かれたが、北欧のフリーセックスを考えれば下着の公開などごく当然の事かと納得した。

 お腹の方は時間外れの機内食で小腹が空いたのでセルフサービスショップに立ち寄りビールとホットドッグで満たし、観光後に夕食の場所を物色したら地味であるが日本料理店が見つかり喜んで繰り込んだ。出国以来一週間ぶりに初めて出会った日本料理は刺身・天ぷらとみそ汁に香の物という定番メニューで豪華さは無かったが日本酒もあり、会話も弾み和やかな雰囲気が充満した。

 ところで日本出国以来一週間近くになってくると同行仲間の性格も会話雑談の中からぼつぼつと分かってくる。コペンハーゲンの土産物店で初めて目にしたポルノブック漁りも然ることながら、団員9人の中に好色家を自認する熱血男子がお二人いた。

 ヨーロッパを訪問する以上、是非とも現地で女性体験をしたいという欲求が見え見えのご両人で、本人は勿論の事、秘めたる体験談獲得の機会を狙っている様子であった。

 日本では江戸時代の吉原の廓が有名であるが、ベルギーでは公娼制度が存続しており、街中に“飾り窓の女”が居並ぶ歓楽街が夜になれば灯りを燈して待ち受けていた。

 ほろ酔い気分とまではいかないが日本食に出会った開放感も手伝って全員で飾り窓の街を探訪した。時間が少し早かったこともあり賑やかさに欠けたが、娼家の前面に設けられた飾り窓の中にはそれと分る姿態の女性が客待ち仕種で外に眼差しを投げていた。

 濃い化粧とどぎついアイシャドウーが日本食後のムードにマッチせず、今夜のところはお二人を含めて見物だけで歓楽街を通り過ぎ、ホテルに帰着し豪華なベッドで就寝した。