人生の軌跡・流郷松三郎の残思録

米寿に想う我が人生

1970年の秋【15】

初の海外旅行【15】イギリス訪問(3)

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 ロンドン 英国工業連盟との会議風景10月19日(月曜日)

 イギリスでは環境問題や労働問題に関して公式会議が3回セットされていた。

 初日が英国工業連盟で、2日目がイギリス労働組合会議(TUC)、3日目が労働省生産性雇用局と平日の3日間は会議の連続であった。

 上の写真は週明けの月曜日、テムズ河対岸にあるロンドン市庁中央局における英国工業連盟との会議風景である。当日は地下鉄を利用した後、国会議事堂横からウエストミンスター・ブリッジを徒歩で渡り、橋の左袂にあった市庁舎に赴いた記憶が残っている。

 テムズ河を渡り終わった後に振り返る国会議事堂の姿に大英帝国の面影を感じたのが印象的であったが 、川の流れにまでは気が回らないままで会場入りをした。

 1970年当時、イギリスは英国病と云われる病に蝕まれ、全身が慢性的な疾患状態を呈して活力不全に陥っていた。

 戦後の経済復興で躍進を遂げた西ドイツや日本に較べ、イギリス経済は成長鈍化に伴う国内不況、労働争議の頻発や長期化による労働意欲減退などの社会不安がはびこると同時に環境政策の遅れから大気汚染や水質汚染が深刻な事態に直面し抜本的な解決策の遂行に迫られていた。   霧の都ロンドンは住宅暖房による煙公害に変貌し、大河川のテムズ河は無計画な工業廃水や生活排水で汚染され、淀んだ流れとなっていた。

 

 公害対策先進国スウェーデンにおける会議とは対照的に、イギリスでは日本でも進行する公害への対策と情報交換が主題であった。 その中で明るいニュースとして紹介されたのがテムズ河の水質浄化の進行状況で、長年の対策が効を奏し〝最近少しずつ魚が戻ってきた〟との喜びの声を聞きながら汚染浄化作業の難しさも痛感した。

 2日目・3日目も引き続き環境問題が中心であったが、不況下における労働組合の有り方や活動方針などにも言及する中で、嘗て七つの海を支配し世界に君臨した悩める伝統大国イギリスの今の経済状態・社会状況に刮目し、移り行く国際情勢の変化にも関心を持たされて公式会議を終了した。

 ロンドンには大英帝国繁栄に寄与・記念した名所旧跡が各所に存在する。

 その一つで代表的な場所がトラファルガー広場である。広場の中央には巨大なライオン像があるが、そのすぐ側にネルソン提督の立像(下写真)が中空に聳えるが如くに光彩を放っている。1805年ナポレオン戦争最大の海戦としてスペイン沖のトラファルガーでフランス・スペインの連合艦隊を撃破し、乗艦ヴィクトリー号甲板で自らは敵弾に倒れながら勝利したネルソン提督はイギリス最高の英雄で全国民から崇められている。

 会議の帰路に立ち寄り、世界に冠たる大英帝国の象徴であった時代を思い浮かべたが、その後20年が過ぎ去った1990年頃に生じた私の木製帆船模型製作の趣味がこの時体内に植え付けられたのではないかと思うと感無量である。

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ネルソン提督の像・トラファルガー広場

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流郷松三郎自作の帆船模型 ヴィクトリー号・トラファルガー海戦の旗艦 

       (1990年頃製作)