人生の軌跡・流郷松三郎の残思録

米寿に想う我が人生

1970年の秋

初の海外旅行【35】オーストリア訪問(3)オペラ鑑賞編

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音楽の都のシンボル、当時のウィーン国立歌劇場全景ときらびやかな夜景

 オーストリアの首都ウィーンはクラシック音楽の聖地である。今回のヨーロッパ訪問スケジュールでウィーン3泊が決まった時から、本場で生の音楽に接する機会を得ようと心に決めて勇躍出発した。50年前まだ海外での音楽鑑賞ツアーなどなかった頃で現地に行かなければチケット入手が困難な時代であったが、私には大きな幸運が齎されていた。フランクフルトで偶然会う事の出来たK嬢同様に会社のクラシック音楽仲間T嬢がやはりドイツに移住しミュンヘンで生活を始めていた。彼女も労音の会員であったと同時に人事部の教養課員で私が社内で主催していたレコード・コンサートのレコード購入や会場手配などの担当として業務上での接触を有していた。偶々私のヨーロッパ訪問が計画途上にあった頃にドイツに移住したが、私の出発間際になって現地からスケジュールを知らせて欲しいと書かれた絵葉書が送られてきた。

 ドイツの何処かで音楽を一緒に聴く機会を見付けて旅行中の私に連絡すると書かれていたので、宿泊予定ホテル名を明記した日程表を急遽羽田空港ポストで投函し、彼女からの連絡を待っていた。

 ベルリン滞在2日目の10月28日夜、ホテルの自室にT嬢から待望の電話があり、11月1日午後にウィーンに出向くので待機していてほしいとの連絡を受けた。当日ウィーン入りし団員一同宿舎のプリンツ・オイゲンホテルにチェックインした直後フロントにT嬢からの電話が入り、当日のウィーン国立歌劇場のチケットを購入した事の連絡を受けた。ヨーロッパの音楽シーズンは秋から冬にかけて盛大に開催される慣わしで、ウィーンでも毎夜国立歌劇場でオペラが上演されていた。そんな中でタイミング良くオペラ観劇が出来る事の喜びを痛感したが、用意してくれたチケットの演目が又素晴らしかった。ワーグナー作曲楽劇『ニーベルングの指環』第2夜「ジークフリート」であった。超大作4部篇の第3作目で予てからワーグナーの音楽に心酔していた私にとっては垂涎の演目である。大作ゆえに日本では聴き得ないオペラを本場ウィーンで到着早々に聴ける幸運を神に感謝するような気分で喜び、その夜T嬢の案内で勇んで鑑賞した。

 休憩時間を含め上演が5時間の大作で終演の午後10時近くT嬢と別れ一人で市電に乗りホテルに帰着したが、同室の仲間が寝ずに待っていてくれた事に感謝した。今回の旅行でクラシック音楽に興味を持つ人が他に居なかった為、ロンドンでも一人で出掛けたが、ウィーンが音楽の都であるに関わらずまたまた一人だけの鑑賞となって団体行動から外れる事になり、団長はじめ仲間の皆さんに丁重にご容赦を願い出た。

 フランクフルトでのK嬢と言い、今度またウィーンでのT嬢との出会いが重なり、団員一同から羨望の眼を投げかけられが、双方ともクラシック音楽を通じた友情と親愛が齎した偶然の巡り合わせであり、現地在住の二人の女性に深く感謝した次第である。

 ウィーンでのオペラ鑑賞は滞在日数一杯の3夜に及び、音楽人生の喜びを満喫した。 

 第1夜、ワーグナー作曲楽劇「ジ-グフリード」 国立歌劇場 座席1階中央

 指揮者 ホルスト・シュタイン

 ジーグフリード ハンス・ベイヤー
 ブリュンヒルデ ベリット・リンドホルム

 その他 テオ・アダム ゲルハルト・シュトルツ等出演

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ホルスト・シュタインジークフリートのプログラアム

 第2夜、プチーニ作曲歌劇「トスカ「」国立歌劇場 座席右側桟敷席

 指揮者・歌手の記録資料なし・記憶なし

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第2夜、1970年11月2日 歌劇トスカの入場券

第3夜、ヴェルディ作曲 歌劇「ドン・カルロ」国立歌劇場 座席2階サイドボックス

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第3夜、1970年11月3日 歌劇ドン・カルロの入場券

 指揮者 ホルスト・シュタイン(前々日にジーグフリードを指揮している)

 ソプラノ グンドゥラ・ヤノヴィッツ
 テノール フランク・コレルリ
 その他  ヴィレッテ・タルベラ出演

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ウィーン国立歌劇場のプログラムとプリマドンナグンドゥラ・ヤノヴィッツ

 ヨーロッパ公式訪問途上のウィーンで3夜連続して本場のオペラを鑑賞出来たのは本当に幸せであった。チケットを手配し、案内ししてくれたT嬢に心から感謝してお別れした。特に3日間の滞在中にワーグナーのドイツオペラとプチーニとヴェルディのイタリアオペラの最高傑作を続けて鑑賞出来た事に感激したが、この三日間は後にも先にもなかった我が音楽人生の最大イベントであったと思い返している。