人生の軌跡・流郷松三郎の残思録

米寿に想う我が人生

1970年の秋【8】

初の海外旅行【8】

 最初の公式訪問国 スウェーデン 首都ストックホルム

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   スウェーデンストックホルムのスプーン

 コペンハーゲンでの飛び入り観光を終え、次便の乗り継ぎ機でスカンジナビア半島を逆戻り横断し、午前11時10分、予定より2時間半遅れでスウェーデンの首都ストックホルムの空港に到着した。

 公式訪問第1国目で、これからがいよいよ本番である。4泊滞在し国の自然保護庁とスウェーデン労働総同盟との会議が設定されているが、初日は地ならしでJETORO(日本貿易振興会)のレクチャーを受けることから海外生活が始まった。

 空港から市内まで約一時間、タクシーで先ずホテルに直行しチェックインを済ませてようやく目的地ヨーロッパに到着したという実感を噛み締めた。

 

 

ホテルはアマランタンと称したが、比較的高級ランクで宿泊代はツインで1人1泊99クローナ(約6900円)であった。

 因みにホテル代は団員から集金した団費から支払うが、各国での宿泊予約は部屋確保のみで、料金は現地折衝と云う不明確な旅行契約であった。

 団編成時の団費徴収に際してホテル代は1人1泊10ドル(3600円)と想定していたのでストックホルム到着早々に予算オーバーとなり、今後の支出を心配した。 

 ストックホルムの街は想像していたより静寂で古都の雰囲気が感じられたのが第一印象であった。メーラレン湖の畔を取り巻くように整えられた街並みは北欧のベニスと譬えられており、150年間戦争に巻き込まれていないため中世の雰囲気を残した王宮や教会の建物が数多く残されていた。ガムラスタンと呼ばれる旧市街地区を揃って一巡しし、とある古い土産物店に入り込み、早速目的のスプーンを見付け、同時に絵葉書を15枚程購入した。

 スプーンは小型シルバー・プレート製で文頭に掲示したように頭部に王冠を戴いた女王画像を嵌め込んだ飾りが付けられている。確認した訳ではないが帰国後に読んだ歴史書から17世紀にストックホルム郊外にドロットニングホルム城を建造した王妃ヘドヴィグ・エレオネラの肖像ではないかと想像している。

 この調子でいけば各国でスプーンを買い続ける事は可能だと楽しみが始まった。

 同時に購入した絵葉書はヨーロッパ無事到着の連絡お礼報告用で、出発時にお世話になった会社関係の皆様と家族・親族宛てに二晩かけて書き上げ、即郵便局で投函した。

 日本への絵葉書投函は序の口で旅行の中盤までにあと100枚は書き続けて行くことがほぼ義務化された当時の海外視察旅行の慣わしであった。

 ガムラスタンを一巡したあと、空腹と寝不足を感じつつコーディネーターの案内で堅牢そうな建物に入り、地下にあるレストランに腰を落ち着けた。

 日本出発以来4回ほど機内食のお世話になっていたが、これがヨーロッパで初めてのランチタイムである。着席したところでレストランの由緒を聞かされた。

 入って来た建物はストックホルムの市庁舎でレストラン名は覚えていないがノーベル賞晩餐会の料理を担当する専属レストランであった。ランチ・メニューもノーベル賞受賞メニューから選抜提供するスウェーデンきっての著名レストランであった。

 出発前に名古屋のキャッスルホテルに合宿して学んだテーブルマナーを思い出しながら海老と白身魚の料理を前にしたが、全員そろって乾杯した白ワインの美味さに瞬時感嘆した。機内食についた小瓶のワインとは大違い、美しいワイングラスに満たされた薄琥珀色の液体が乾いた喉に一気に沁み込むと、これがワインだと思わず叫びたくなるような快感が体の芯に伝わったのを覚えている。

 明日からは公式訪問の会議で忙しくなる。軽い酔い心地を覚ましながら新市街まで歩き市内一番のMK(エンコー)百貨店を見物してホテルに帰着した。